南アフリカは新型コロナで国民融和の夢を見るか?

新型コロナに伴う南アのロックダウン開始から、2ヵ月が経過。

当初3週間の予定で始まったロックダウンは4月末まで延長され、5月1日からは新たに導入されたRisk adjusted approachの元、国全体でレベル4ロックダウンが行われています。

5月が後半に入り、産業界から早期の経済活動再開のためにロックダウンレベルの引き下げを求める声、また、子を持つ親や学生自身から学校再開を求める声が日増しに拡大。

まずは教育分野から、Grade 7とGrade 12からの段階的な復帰を軸とする学校再開方針が示されました。

続けて、5月24日にRamaphosa大統領が6月1日よりロックダウンをレベル3に引き下げると国民に対して述べて、現在に至ります。

融和か分断か ポスト新型コロナの南アが向かう先

南アのロックダウンに対する評価は足元定まっていません。

死亡者ゼロ段階という早期の決断自体は感染拡大予防の観点から必要だったとして、専門家・市民に共通して支持する声が大勢を締めます。しかし一方で、治安当局による暴力、届かない生活困窮者への支援、不可解な門限の導入、タバコを巡る混乱など、運用面では多くの課題が残っています。

この運用面の改善や、新型コロナ対策としてそもそも最も有効な措置は何なのかという議論と平行して、ポスト新型コロナの南アについて考える論考が増えてきています。

多様な論考の中で、University of the WitwatersrandのDavid Everatt教授によるLockdown is riling black and white South Africans: could this be a reset moment?は特に大きな反響を集めました(というか、大炎上しました。コメント欄は現在閉鎖)。

ANALYSIS: Lockdown riles black & white South Africans: is this a reset moment?
It is remarkable how quickly South Africans have lost the sense of camaraderie and support for a strong leader, and begun to complain rather about crypto-fascis...

白人がアパルトヘイト下の黒人の生活を疑似体験?

記事の骨子は次のようなものです。

  • ロックダウンによる様々な制限は奇しくも、白人がアパルトヘイト下の黒人の生活を疑似体験する機会になっている。
  • 一方で、ロックダウンに伴う不便は全南ア国民が被っており、政府に対する不満は人種の別け隔てなく増している。
  • 白人が「我々は(黒人政府による)ロックダウンの被害者だという」意識を捨てれば、政府を共通の敵に仕立てることで国民融和が進むのではないか。

White South Africans right now have a rather comfortable, tiny insight into what life under apartheid was like. It can be a powerful moment to empathise with what it was like to be black under apartheid – and this time, blacks and whites are all being treated the same.

They are all irritated by a government that seems bent on exercising power in small, nasty ways. That’s why this can be a great moment, because black and white South Africans really are all in this together, and they all increasingly dislike their government together.

If white people can stop acting as if they are individually and personally being attacked, and understand the shared nature of both unhappiness and anger, there is real potential for some (much delayed) healing.
出典:Lockdown is riling black and white South Africans: could this be a reset moment?

South Africans can come out of lockdown as a more empathetic and united people – even if united in irritation or anger at a capricious government that seems to regard evidence-based decision-making as meaning regulations chop and change according to ministerial whim.

出典:Lockdown is riling black and white South Africans: could this be a reset moment?

うーん。果たしてそんなにうまくいくだろうか。

「助け合い」はロックダウン下で増えている

ロックダウン中の南アで、持てるものが持たざるものを助ける、チャリティーの枠に収まる取り組みが増えていることは事実です。

ロックダウン導入が決定された直後から、「ロックダウン中も支払える人はメイドや庭師への給料を支払続けよう」という呼びかけが様々なコミュニティで行われていました。

ロックダウン下では、非営利組織や教会、自治会、スポーツ組織、有志等による大小様々な緊急支援プログラムが行われています。南ア政府に生活困窮者支援がスムーズには行われず、また、数百万人とも言われるジンバブエ人等の外国人がセーフティネットからこぼれ落ちる中で、これら民間による支援は貴重な命綱として機能しています。

例えば、僕の半径2kmだけでもこの通り。

PRA calls for donations of R250 or more to help feed those in need | Rosebank Killarney Gazette
PARKVIEW – Combining efforts with other non-profit organisations in the community, the PRA will provide food hampers to those in need.
Covid-19 won't end spirit of ubuntu: Parks unite to help those in need | Rosebank Killarney Gazette
GREENSIDE – With help from volunteers, these parcels were then collected on the same day by a number of non-profit organisations.

無能な黒人による黒人のための政府 コロナ禍でさらに積み重なる白人の不満

しかし、Everatt教授が指摘するように白人がロックダウン生活を通じてアパルトヘイト下の黒人の生活に思いを巡らせるかというと……ちょっとむずかしいように思います。

そもそもANC率いる南ア政府に対して多くの白人は、程度の差こそあれネガティブな評価を下しています。典型的に聞かれるのは、

  • 黒人が選んだ黒人のための政府。
  • 汚職、腐敗、非効率の塊。
  • 経済の「ケ」の字もしらない時代遅れの共産主義者。
  • 比較的裕福である私たちが税金を多く支払うことは認めるとしても、対価として受け受け取る行政サービスの質は年々低下(もし何か受け取っていればだけど)。
  • 全て失敗の原因をアパルトヘイトに求める無責任体質。

など。

こんな自分たちの代表ではない政府から2ヵ月間の自宅待機を命ぜられ、フラストレーションを抱える中で「アパルトヘイト下の生活はこんな感じだったのか、大変だったね」と共感できる人はなかなか存在しないでしょう。

民間のチャリティーを歓迎するどころか妨げる政府の姿勢、旅行業界への経済対策におけるBEE条件設定、世界中の航空会社が倒産の危機に瀕する状況下での新国営航空会社設立構想、不可解な門限設定や細かすぎる買い物制限、タバコ販売を巡る混乱と背後に見え隠れするマフィア利権の存在……。

ネガティブな要素を挙げればキリがなく、積み重なる政府への不満が黒人支配への不満に、さらにはこれが黒人への不満に転じて、物事は融和とは真逆のベクトルに進んでいるように感じます。少なくとも僕の周りでは、新型コロナとの闘いをきっかけに国民融和が進んでいるという話は見聞きしませんし、その雰囲気も感じません。

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国民融和への道筋は見えず

他方で黒人、その大多数を占める低〜中所得者層の今の優先事項は「いかにして生き抜くか」。白人との融和に目を向ける余裕は恐らくありません。

南アの貧困層がロックダウンの影響を大きく受けている様子は、メディアが比較的早くから報じていました。

コロナウイルス危機 南アフリカの貧困層を直撃
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そして今でも、報道やソーシャルメディアには次のような声が溢れています。

  • とにかく早くロックダウンを終わらせてほしい。
  • 仕事がない、収入がない、食べものがない。
  • 冬が近づく中で、暖を取れる洋服がない。
  • オンライン学習というが、端末がない。インターネットアクセスは高い。
  • 学校に清潔な水と衛生設備を導入すると言うけど、20年以上かけてもできないことが突然できるとも?
  • 失業保険は手続きが複雑すぎる、それにいつ支払われるかわからない(もし本当にもらえるならね)。
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コロナ禍をきっかけに南アの国民融和が進む可能性は恐らくゼロに近く、社会の分断はこれからも続く。南アにかれこれ10年近く滞在している身としては残念ですが、そう言わざるを得ない現実があります。

photo credit: fanz Apartheid Museum via photopin (license)

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