南アフリカへの青年海外協力隊派遣 案件内容について在住者が思うこと

南アフリカにはおよそ1500人の日本人が住んでいます。その多くはヨハネスブルグ、ダーバン(主にトヨタ関係)、ケープタウンの3都市に集中しています。こんな背景がある中で、ここ数年間は僕(と家族)が唯一のリンポポ州在住日本人でした(たぶん)。

ところが、ふと青年海外協力隊の要請情報を見てみたところ、現在募集中の3案件が3案件ともリンポポ州というビックリな状況に! しかも案件のうちの1つは、僕の居住地から車で30〜45分の地域で行われるようなんです。

ということで、近所で行われる(らしい)案件情報を読んでみたところ、色々思うことがあったので書き連ねてみます。
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【配属先概要】
1)受入省庁名(日本語) 農林水産省

2)配属先名(日本語) シュランガナニ農業サービスセンター
3)任地:リンポポ州ベンベ郡マカド町シュランガナニ
JICA事務所の所在地:(プレトリア)から 北東方向 420Km
主要都市(ポロクワネ)までの交通手段及び所要時間:(車で約2.0時間)

4)配属先の規模・事業内容:
配属先は同国北部に位置するリンポポ州農業省傘下の農業普及指導サービスを実施する機関です。現地ではサービスセンターと呼ばれる組織で、農家に直接関わる農業普及員が農家を訪問する巡回指導やセンターでの講習会を通じて農家の能力向上に取り組んでいます。同センターは、半径約50kmの範囲内にある農家を管轄しています。センターの年間予算は約31百万円で職員数12名、うち農業普及員は5名で
す。

【要請概要】
1)要請理由・背景
同国ではかつてのアパルトヘイト体制を克服し、黒人の経済力強化支援である「ブラック・エンパワーメント政策」を進めてきています。

黒人小規模農家の強化もその一つで、自給自足の農家から商業ベースの農家、稼げる農家への成長を目指しています。この取り組みに対して JICAはBOPビジネス連携促進調査やSHEPプロジェクトを通じて協力していますが、 栽培知識・実践だけではなく、資金調達や農作物の流通、市場の動向に応じた作付計画など、ビジネスとして農業を捉える農業経営マインドの育成も必要と考えています。

本件は、農民により近い環境で活動する隊員派遣により、日々の活動を通じて農家の成長を促すための派遣となります。 隊員を通じた関連プロジェクトやNGOとも連携による問題解決への貢献も期待されています。

本派遣では農家の現状確認と今後のボランティアによる協力計画立案をし、後任長期派遣隊員に引き継いでいきます。

2)予定されている活動内容(最終的な活動内容は、赴任後に配属先と協議し決定します)
同僚農業普及員(主に野菜栽培担当)と共に、地域の農家の成長を支える。
(1)巡回指導等を通じた地域の農民のレベルの把握
(2)各農民のレベルに応じた支援策(基礎計算力向上、PCの活用、マーケティング等)の検討
(3)JICA、現地NGO、政府等、既存の支援プログラムの調査及びそのプログラムの地域向けアレンジ
(4)州政府レベルへの定期報告
※配属先における業務改善(カイゼン)に関する取り組みへの助言も期待されている
※PCの活用経験(Word/Excel/Power point/e-mail)は必須。

http://www.jocv-info.jica.go.jp/short/sjva/index.php?m=Info&yID=JA53914201

「シュランガナニ農業サービスセンター」とあるのは、たぶんHlangananiのこと。現地での正しい発音「”シャ”と”ヒャ”の中間の音+ンガナニ」を誤訳したものと思われます。

ざっと案件情報を読んでみての感想は「これ結構大変だぞ」というものです。

第一のチャレンジは「黒人小規模農家の強化もその一つで、自給自足の農家から商業ベースの農家、稼げる農家への成長を目指しています」「栽培知識・実践だけではなく、資金調達や農作物の流通、市場の動向に応じた作付計画など、ビジネスとして農業を捉える農業経営マインドの育成も必要と考えています」というお題の設定です。

南アフリカの小売業は巨大資本が支配しています。例えば僕が住んでいるマカドは田舎の小さな街ですが、そんな街でも買い物は大手のスーパーマーケットチェーンが便り。他のアフリカ諸国で見られるような小規模商店や市場は見られません。つまり、販売先のオプションが少ないのです。

では市場を支配している大手のスーパーマーケットチェーンがどのように商品を仕入れているかというと、これは当然大規模農場からの大量買い付けです。したがって端的に言うと、大手が求める品質と供給体制を用意しない限り、「稼げる農家」になることは大変むずかしいと思います。本案件は7ヵ月の短期派遣ですので案件形成の意味合いが強いと思いますが、将来的に2年単位で協力隊員が来たところでこの市場メカニズムに食い込むことは大変むずかしいと推測します。

ちなみに、配属される農業サービスセンターはいわゆる農薬や種子を購入して行う従来型の農業を推進する組織だと(耳にかじった程度ですが)聞いています。この組織の性質を全く無視することにはなりますが、経済力強化のためには農業によって収入を増やすという方向ではなく、農業によって支出を減らす、具体的には、今各世帯が小売店から購入しているような野菜を家庭菜園などの小規模農業で生産して自給率を上げるという方が現実的な気がします。

第二のチャレンジは、時期です。本案件は2015年1月開始となっていますが、この時期がよろしくない。なぜかというと、雨季にあたるこの時期は周辺の村に住む人たちが、主食となるメイズを自家消費のために育てる時期です。雨季に栽培したメイズで1年分の主食をまかなえるか否かが決まるため、多くの小規模農家たちはメイズ栽培に集中します。となると、7ヵ月という活動期間の中で最初の数ヵ月間はあまりできることがないような気がします。

第三のチャレンジは、交通の足です。青年海外協力隊は原則として車やバイクの運転が認められておらず、この案件もその例に漏れません。ところが、Hlangananiに含まれるエリアは非常に広く、効率的に調査や視察を行うためには車が必要です。受け入れ側の視察に同行するということになるのでしょうが、そうだとすると自分で考えて自分で動くということはなかなか難しいように思います。

最後に、この案件の語学レベルはB(TOEIC 640点以上~730点未満)とありますが、このレベルの語学力だとはっきり言って足手まといにしかならないでしょう。一般論として南アの人は片言の英語にも寛容ですが、これが仕事となると話は別。英語でコミュニケーションが取れない=仕事ができないということですから、雑な言い方をすると下に見られてしまう可能性が高いと思います。

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