南アフリカで「チャイナ!」と呼ばれても怒ってはいけない

Arusha Street Scene

「チャイナ!」

南アフリカで道を歩いていたら突然このように声をかけられて、「何だこのやろう」と思ったことがある人は多いんじゃないかと思います。

こんな場面に遭遇した時には、色々な対処方法があるでしょう。

「無視する」
「否定する」
「怒る」
「説明する」

などです。

まぁ仮にこれが「ジャパン!」だったとしても、街で見かけた外国人に対する振る舞いとしてはとても失礼な行動ですから、怒りたくなる気持ちはわかります。僕も今でこそ慣れましたが、南アフリカに来て間もない頃は毎回のように腹を立てていました。

ところで、なぜ「ジャパン!」ではなく「チャイナ!」なのでしょうか。データや経験を交えつつ、この点について考えてみたいと思います。

日本人1500人、中国人35万人 比べ物にならない南アフリカでの存在感

そもそも、南アフリカにおいてアジア系(インド系を含む)は少数派です。2011年のデータによると、南アフリカの人口約5177万人中、アジア系の人口は約128万人。割合にするとわずか2.49%です。インド系を含むアジア系でたったこれだけの人数ですので、黄色人種に限ると数はぐっと少なくなるでしょう。

では、アジア系の中でで日本人はどれくらいなのかというと、2011年の在留邦人数は1446人というデータが外務省から出ています。

ここから簡単な計算をしてみます。まず、南アフリカの人口に対する割合を計算すると0.0028%(約3万5000人に1人)です。とても少ないですね。アジア人に対する日本人の割合ですら0.113%(約885人に1人)です。これらから、日本人は「大多数の南アフリカ人にとってほとんど縁がない存在」だと言えると思います。

一方で、南アフリカにおける中国人の存在感には目を見張るものがあります。アジア経済研究所が2011年に発表した『ポスト移行期南アフリカの社会変容』調査研究報告書(牧野久美子・佐藤千鶴子 編)の第6章「南アフリカの大都市における中国系移民に関する予備的考察」(吉田栄一)から、中国系の移民は約32〜37万人と考えることができます。

中国系移民は、異なった出自と南アでの在住経験を持っていて、それぞれのグループが都市において異なった根付き方を見せている。Parl[2008]はこのような重層的な中動く系移民層を台湾系富裕層(約6000人)、大陸出身の上海などどしエリート層と貧困層(30万から35万人)、中国系南ア人2世、3世、4世(約1万人)からなるとしている。

南アフリカの大都市における中国系移民に関する予備的考察(吉田栄一)

1500人と35万人。単純な数の比較だけでも、南アフリカにおける中国人とは日本人との存在感が比べ物にならないことがわかります。

元大手新聞社特派員も驚いたヨハネスブルグの巨大チャイナタウン

白人政権が退いて南ア初の黒人大統領が誕生する前年の1993年夏から8ヵ月ヨハネスブルグに在住し、「ルポ 資源大国アフリカ」の著者である毎日新聞記者の白戸圭一氏は、2004年に現地を訪れた時の驚きを次のように語っています。

湖に近い、500メートルほどの通りの両側に建つ、かつて白人が住んだコンドミニアムは、漢字と英語が併記された看板で埋めつくされ、1階に中華料理店や雑貨屋、床屋などがずらりと軒を並べている。2階から上のベランダには洗濯物が盛大にひるがえり、通りの先には中国人経営の巨大なショッピングモールまであって、すっかりチャイナタウンに様変わりしていました。

週刊新潮2010年07月01日発売号「日本人たった5000人のアフリカ大陸に「タフな中国人」100万人」

白戸氏の話に出てくるチャイナタウンはヨハネスブルグのシリルディーン(Cyrildene)という地域に今でもしっかりと根を張っています。僕も食材の買い出しによく足を運びますが、とても10年未満程度で発展した地域には見えません。

ちなみに少し話はそれますが、白戸氏の著書「日本人のためのアフリカ入門」はアフリカ関連書籍の中でオススメの1冊ですのでぜひ読んでみてください。

どんな田舎町でも見つかる中国人経営のチャイナショップ

続いて、僕が南アフリカに2年間滞在する中で、中国人の存在感を感じたエピソードを2つ紹介したいと思います。

1つ目は、北ケープ州のスプリングボック(Springbok)という街に行った時のことです。ここは資源メジャー・デビアスグループが保有するダイヤモンドなどの鉱山で名高い街ですが、2011年の人口は1万3000人ほど。南アフリカとナミビアを行き来する通過点にこそなるものの、他にこれといった産業はありません。

しかし、こんな街でもチャイナチョップは街の中心地に店を構えている訳です。「なんというたくましさ!」と、なんだか感心すらしてしまいました。

2つ目は、リンポポ州で出会った70歳のおばあちゃんの話です。このおばあちゃんとは、あるプロジェクトの一環で家庭訪問をした時に出会いました。村のお年寄りと話をする時は、普段だとベンダ語またはシャンガーン語に通訳をしてもらいながら英語でやりとりをするのですが、このおばあちゃんは「私は昔、中国語を話せたのよ」と僕に直接話しかけてきます。

聞くと、若い頃にヨハネスブルグのチャイナタウンで皿洗いの仕事をしていたとのこと(前述のチャイナタウンとは異なる、旧チャイナタウン)。中国語をどのくらい話せるのか僕には確かめられませんでしたが、これには本当にビックリしました。

どうする? 「チャイナ!」と呼ばれた時の正しい対処方法

Rainbow

残念ながら、ここまで見てきたように南アフリカにおける中国人と日本人の存在感には天と地ほどの差があります。

つまり、「ジャパン!」ではなく「チャイナ!」なのは何も悪気があってのことではなく、南アフリカにおける日本人の存在感の薄さを招いている当然の結果といえるでしょう。

そうはいっても自分が日本人なのに、一方的に「チャイナ!」と呼ばれるのはあまり気分のいいことではありません。では、どのように対処するのがいいのでしょうか。

最悪なのは「教えてやろう」という姿勢

とある青年海外協力隊員は、自身のTwitterでこのようなことを発言していました(当該ツイートは既に削除済)。

チャイナと呼びかけてくる奴がいたら、まずそいつを取っ捕まえる。日本人と中国人の違いもわからないのかお前は、と徹底的に教えこんでやる。

……これはやめておいたほうがいいでしょう。てか、青年海外協力隊は大丈夫か?これは一部の例外であることを願うのみです。

うまく説明すれば、必ず伝わる

僕は「気にせずに無視する」ことが多いです。ただし、どうしても「説明する」必要がある時には、とある比喩を使うことにしています。

その比喩とは「日本人と中国人は、南アフリカ人とナイジェリア人くらい違うんだよ。もし自分がナイジェリア人だと思われたらどう感じる?」です。

この話は(相手が南アフリカ人だった場合)今のところは10人中10人に効いています。すぐに「それは悪かった。日本人なんだな。で、日本語の“ありがとう”と“ごめんなさい”を教えてくれないか」と態度が一変します。

南アフリカ人がナイジェリア人にどんなイメージを持っているのかはわかりません(ナイジェリア人のみなさん、ごめんなさい)。ただ、自分の立場に置き換えて考えることで、いかに失礼な行動だったかのがわかるのでしょう。

さまざまな文化や民族が共存しすることから、南アフリカは「レインボーネイション」と呼ばれます。その一員として、日本人もうまく溶け込んでいきたいものです。

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