H&Mの差別広告”クールな猿”事件 南アフリカ在住者として伝えたいこと

日本からLINEで「南アフリカすごいね。大丈夫?」とメッセージが。何事かと思って聞き返すと、Coolest monkey in the jungle問題を巡ってH&Mが襲撃されたとのことでした。

あーなるほど、これが報道された訳だ。そりゃ心配するわ……。

日本の報道機関は「野党が支持者に呼びかけていた抗議行動が過激化した」などと報道しています。でも、この報道っぷりにはちょっと違和感が……。

スウェーデンの衣料品大手H&Mが黒人への差別的な広告を使用した問題で、南アフリカ国内にある同社の複数の店舗が13日に襲撃され、商品が盗まれるなどの被害が出た。黒人の権利擁護を訴える野党が、支持者に呼び掛けていた抗議行動が過激化した。南アのメディアが報じた。

地元警察によると、最大都市ヨハネスブルクの店舗では、商品が略奪され警官隊がゴム弾で制圧。商品が床にまき散らされた店もあった。H&Mによると、客や店員にけがはなかった。

出典:共同通信社

H&Mへの襲撃は野党EFF得意の炎上商法 恐らく、党本部からのお墨付き

報道を額面通りとらえると、野党Economic Freedom Fighters(EFF)の支持者、すなわち一般市民が暴走したかのように読めます。でもちょっと待って、この報道は大きなミスリードです。

ポイントは2つ。

まず1つ目は、抗議行動の主体者です。多くの報道が「支持者」としていますが恐らく、破壊行動の参加者は単なる「支持者」(=選挙でEFFに投票するような層)ではなく、EFF党本部と非常に距離の近いグループです。例えば、「党員」と表現するのがより適切だと思います。

次のポイントは、店内での破壊行動に関する支持の有無です。現時点でEFFからの公式見解は示されていませんが、党本部から「破壊行動OK」の指示が出されていたものと推測します。

与党ANCの青年部長Julius Malemaが2013年に設立したEFFは、自らをマルクス・レーニン主義として規定し、反資本主義を掲げる野党第2党です。「アフリカーナーは国から出て行け」と発言して有罪判決を受けたり、国会の議事進行を再三妨げたりして批判を浴びるなど騒ぎを巻き起す一方で、「白人からの土地収奪、無保証での黒人への分配」「すべての銀行や鉱業の国有化」などポピュリスト的な発言で現状に不満を持つ黒人若年層の取り込みに成功しています。

EFFの得意技は炎上商法。最近ではZuma大統領による全く具体像が見えない「貧困層への高等教育無償化実施」発言に乗っかって、「(既に今年度の入試プロセスは終了しているにも関わらず)大学に願書を持っておしかけろ、抗議しろ」「定員に達していて学生の受入が不可という大学は土地や資産を売ってでもスペースを確保しろ」などと、煽動を試みています。

これらをふまえて考えると、H&Mへの襲撃は党本部からの何らかのお墨付きの上で、あるいは計画的に行われた可能性が高いと考えます。したがって、EFFのポジショントーク的なもので、H&Mの差別広告に対する南アの反応を代表するものではない、と理解する必要があります。

襲撃事件がどう裁かれるかが今後のカギ

常識で考えれば、EFFによる店舗襲撃は威力業務妨害等の罪で立件されるべきでしょう。

ただし、今回の案件が南アで黒人の支持を獲得するのにもっとも有効な人種差別関連であったことを考えると、支持率低下に悩む与党ANCが警察機構に対して何らかのプレッシャーをかけて、「お咎めなし」とする可能性もゼロではないと考えます。

もし後者のシナリオで事が運んだ場合には、これを機に一度は袂を分かったANCとEFFが再び近づき、黒人絶対主義へと突き可能性も否定できません。こうなった時に、南アフリカ共和国という国はネルソン・マンデラ元大統領が描いた「虹の国」の理想から離れ、再び人種で国が分断される、真の危機に直面することになるでしょう。

コメント

  1. Kenji Ido より:

    南アフリカの情勢に明るくないため,少し調べつつ記事を読ませていただきました。
    ずっと日本に住んでいる身としてはやはり,人種差別問題はどこか遠い国の話に感じるところではありますが,生まれた時から自分にも国にも根付いている「ヘイト」へのヘイトの闇は色濃いものだなと思いました。
    非常に興味深い記事でした。またブログ拝読させていただきます。

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