他のアフリカ諸国と比べるとマシな方ではあるものの、南アフリカ(南ア)では賄賂が横行しています。ある調査によると、約2人に1人の南ア人は、過去1年間で必要な社会サービスを受けるために賄賂を払ったことがあるんだそう。これは、世界平均の約4人に1人を大きく上回っています(この世界平均値にも驚きですが)。
南アフリカでは警察を頼りにできない
この賄賂の行き先には当然警察も含まれる訳ですが、そもそも南アの警察の実態はどのようなものでしょうか。
元毎日新聞ヨハネスブルグ支局特派員の白戸圭一氏は、著書「ルポ資源大国アフリカ」で自身の経験を交えつつ、2006年頃の南アの治安や警察の対応について次のように述べています。
もし、国際的な常識に従って「未遂」を含めて殺人発生率を計算しなおすと、2006年度の南アの殺人発生率は10万人当たり82.9件。2000年のコロンビアをはるかに上回る驚異的な発生率になるのだ。
強盗事件はどうか。日本では近年、年間5000件超程度の強盗事件の発生が報告されている。これに対し、南アの場合、年間20万件前後発生している。南アの人口は日本のおよそ三分の一だから、発生率はおよそ120倍だ。
ちなみに南アでは、よほど社会的に注目され事件でもない限り、日常発生する強盗事件では捜査自体が行われない。私の娘が巻き込まれた事件でも、警察官は一応、現場に来てはくれたが、被害者から簡単な聞き取りをして終わり。
犯行現場で指紋や足跡を採取する鑑識捜査が行われることも、まずない。ショッピングセンターで激しい銃撃戦が行われ、警察への緊急通報が相次いでも、警察官の現場到着が一時間後などというケースもザラだ。
2010年にはサッカーのワールドカップ開催を成功させたように、南アの治安は平均すると良化傾向にあり、現在の状況は白戸氏の滞在時よりも改善されています。
しかし、民主化後20年を経ても埋まるどころか拡大する経済的・社会的な格差の拡大に伴い良化傾向は鈍化。例えば、在南ア日本大使館は「ケープタウンの一部地域の治安はここ数十年で最悪の状況にあるとの報道がなされている」との情報を伝えています。
(参考)ケープタウンの犯罪事情/旅行者のための南アフリカ治安情報(2015年3月版)
https://cacia.net/south-africa-cape-town-security-1503.html
治安の維持には様々なアプローチが求められますが、そのための1つの機能として、警察には犯罪の予防や取り締まり等に力を注いでもらいたいものです。
しかしこんな期待とは裏腹に、残念ながら警察官もまた、賄賂を稼ぐために忙しいという現実が存在します。
タカリ行為に忙しい警察官たち ヨハネスブルグの空港周辺は特に要注意
では具体的に、ヨハネスブルグで外国人が気をつけるべきことは何でしょうか。
特に目立つのは、O.R TAMBO空港周辺での警察官によるタカリ行為です。腐りきった警察官たちが「一時停止違反をした」などと交通違反をでっち上げて、暗に賄賂を要求してきます。
「えっ、空港周辺で警察官に止められたことなんてないよ」という日本人の友人もいるのですが、僕は童顔だからか、英語ができなさそうに見えるのか、最近では毎回と言っていいほど警察官に絡まれます。
最初は内心怒りながら受け答えをしていましたが、あまりにも頻繁なのでもはや対応が事務的になってきています(苦笑)悪徳警察官たちには顔を覚えてもらいたいものです。
さて、このタカリ行為は実際にどのように行われているのでしょうか。僕の経験を元に、やりとりの一部始終を再現してみたいと思います。
再現中継 空港の駐車場入口付近での警察官によるタカリ行為
警察官(以下、P):(進行方向に立ちふさがって手招き。停止を促す)
僕:(指示に従って車を停車)
P:(車の窓枠に肘をつきながら)ヘーイ、チャイナ。パスポートと免許を見せろ。
僕:(日本人なんだけどな)どうぞ。
P:(なんだ、書類不備はないのか。よし、次の手だ)ところでお前今、停止線で止まらなかったな。
僕:えっ、止まりましたよ。しっかりと止まりました(つーか、この位置から停止線見えないでしょ)。
P:俺は見ていたぞ。お前、警察官に難癖をつけるのか?
僕:本当に止まりました。ウソは言っていません(こりゃ長くなりそうだな)。
P:じゃあ俺がウソをついているというのか。警察官への侮辱だな。一時停止無視で500ランド、警察官への侮辱で500ランド、合計1000ランドの罰金だ。違反切符を切る。車を降りてこっちへ来い。
僕:(あーあー、またこのパターンか)わかりました。
P:今から俺が何をするかわかるか?
僕:違反切符を切るんですよね。
P:(もうちょっと脅してみるか)お前、俺に指図をしたな? これは警察官への侮辱だ。罰金500ランド追加、合計1500ランドだ。
僕:(自分から質問しておいて、めちゃくちゃだな)わかりました。
P:(なかなか折れない奴だな)ところで俺は今、腹が減っているんだが。
僕:(ランチ代をタカるつもりだな)そうですか。
P:お前の予算はいくらだ?
僕:(予算って何だよ)罰金は1500ランドなんですよね? 違反切符をいただければ、警察署で支払います。
P:1500ランドだぞ? いいのか?
僕:はい、構いません。
P:(くそっ、賄賂を払うつもりはないのか。次の獲物を探そう)もういい、行け。
僕:(今回はしつこかったな)わかりました。
もしも警察官にタカられてしまった時の対処方法
10分近くも茶番に付き合わされて腹立たしい思いでいっぱいなのですが、自分に非がなければこのようにして警察官によるタカリ行為に対処することは十分に可能です。豊富なタカられ経験に基づいて、気をつけるポイントをいくつか挙げてみたいと思います。
大原則! 交通規則をきちんと守る
当たり前なのですが、交通規則をきちんと守ることが大切です。どんなに小さなものでも交通規則に違反してしまうとタカリ行為はよりエスカレートしますし、もちろん違反切符を切られてしまいます。
とはいえ、中には「違反を見つけるための規則」のように感じるものがあることもまた事実。
特にO.R TAMBO空港周辺では、以下に気をつけたいところです。
- 一時停止: ターミナルへの入口、ターミナル内、駐車場出口、R24との合流地点
- 制限速度: 同上
- ウインカー: 車線変更、駐車時
- シートベルト着用
また、南アフリカでは外国人にパスポート(または認証コピー)を持ち歩くことが義務付けられています。不携帯を指摘されると面倒なことになるので、必ず持ち歩くようにしてください。
(参考)賄賂を払いたくないあなたへ
https://cacia.net/south-africa-do-not-pay-bribe.html
「イハンキップヲクダサイ」を唱え続ける
僕が罰金として言い渡された1500ランドは、日本円に換算すると約1万5000円。決して安い金額ではありませんので、思わず怯んでしまいそうです。
でも大丈夫、これは単なる脅しです。腐りきった警察官の目的はお小遣いを稼ぐことですから、(交通違反をしていなければ)実際に違反切符を切られることはありません。
理不尽な罰金が高額でも「違反切符をください」と呪文のように言い続けましょう。賄賂を支払う意思がないことが伝われば、相手もそのうち諦めるはずです。
遠回しな賄賂の要求には正面から答えない
こんな南アフリカでも、賄賂の要求は公式には禁止されています。そこで、腐りきった警察官は遠回しに賄賂を要求してきます(中には直接要求してくる警察官もいますが)。
再現中継に登場した、
「俺は今、腹が減っている」
「お前の予算はいくらだ?」
は典型的な決め台詞です。
こういうことを言われても相手にせずに軽く受け流して、呪文「イハンキップヲクダサイ」を唱えましょう。相手にはもうこれ以上の技が残っていませんので、闘いからの解放はすぐ目の前です。
まとめ
一度目をつけられてしまったら逃げることはできませんが、取るべき対応を知っているかどうかで拘束される時間や精神的なダメージも変わってくるんじゃないかと思います。
悪徳警官にさんざん捕まっている僕の経験が何かのお役に立てば幸いです。
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