【書評】ポスト・アパルトヘイト(日本評論社)

1990年2月11日、反アパルトヘイト運動の闘士ネルソン・マンデラ氏は27年6ヵ月ぶりに自由の身となりました。この本は、同年10月27日〜11月1日に来日したマンデラ氏を歓迎する市民運動「ネルソン・マンデラ歓迎日本員会」がポスト・アパルトヘイトの南アフリカ共和国(南ア)の分析や、活動の記録をまとめたものです。

同委員会による分析は示唆に富んでいますが、僕は活動の記録により興味を持ちました。まず驚かされるのは、大阪の扇町公園にある大阪プールで行われた歓迎行事に2万8000人もの人々が集まったという事実です。コンサートなど他イベントとの抱合せではなく、大規模な組織動員もない、市民団体が主催する単独の行事が数万人を集めるというのは、大変めずらしいからです。この数字からだけでも、当時の熱気が伝わってくるようでした。

日本における反アパルトヘイト市民運動は、南アの新聞に対する「Return what has been stolen(盗んだものは還せ)」という意見広告の出稿や、政治囚やその家族を含む南ア人との文通、国際協力活動(主に教育分野)などの活動をを、さまざまな個人や組織が継続的に行なってきたといいます。これらの主体が「ここぞ」という場面で一つになったことで前述の結果を生み出したということに、現在の私たち、特に社会課題に関心を持って取り組む人たちは学ぶ必要があるのかもしれません。

この一致団結には、関西における反差別や人権擁護との闘いの歴史が大きく一役買ったと書かれています。「与える」「与えられる」の関係ではなく、権利の侵害に対して共に闘うという考え方が日本の反アパルトヘイト運動における一つの核を成していたということは、もっと広く認識されるべきではないかと思いました。

本書はアパルトヘイト撤廃前の1992年に刊行されました。そのため、一連の歓迎行事後の市民運動については触れられていません。これについては、アジア経済研究所「ポスト移行期南アフリカの社会変容」研究会(2010〜2011年度)の中間報告書第8章「南アフリカの移行と日本の市民社会」が参考になります。ぜひ読んでみてください。

本日の一冊

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アパルトヘイトの終焉は新たな果てしない挑戦への始まりだった。南アフリカの抱える巨大な矛盾、それをもたらした背景、今後の行方と展望を、元在南アフリカ日本大使館公使が綴る、南アフリカ知識人との対話。

いかにしてマンデラは南ア「初の黒人大統領」となり、なぜデクラークは「最後の白人大統領」の道を選択したのか。アパルトヘイト撤廃で何が変わり何が変わらなかったのか。全人種選挙への過程を克明に追う中で、現在なお南アフリカが抱える難問と展望を明らかにする。

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