「5000部売れればベストセラー」といわれる南アの出版業界で、今、異常事態が発生しています。
“The President Keepers“という本が爆発的に売れているのです。
初版2万部が発売一週間で完売 違法コピー流通も
10月末の発売以来、
●初版第1刷2万部は発売から1週間ほどで完売
●1万5000部を緊急増刷するも、既に大手書店で完売
●南ア最大手の書店Exclusive Booksは11月15日(水)までにさらに2万部を入荷すると発表
●電子書籍版がWhatsAppやメールで流通中(違法コピーは犯罪ですが、事実として)
と異例の事態が続いているのです。
南ア人をここまで夢中にさせる”The President Keepers“とは、いったいどんな本なのでしょうか?
ベテランジャーナリストによる渾身の大統領汚職告発本
実はこの本は、南アの現役大統領であるズマ大統領の汚職を告発した本です。アパルトヘイト下の南アで当時の国民党政府の暴力をアフリカーンス語のメディアで暴露した筋金入りのジャーナリストJacques Pauw氏が引退を撤回して書き上げました。
関係者の証言と書類に基づいて、近年の南ア政界における数々の不可解な出来事の裏側を明らかにする内容になっています。
●1. State Security Agency(SSA)による税金10億ランド以上の無駄遣い
●2. カネに汚いズマ大統領 就任直後の4ヵ月間、月間100万ランドの給与を民間企業から受領
●3. かつては最も尊敬される政府機関だったSouth African Revenue Service(SARS)が地に墜ちた理由
●4. ズマ大統領はどうやって司法に手先を送り込んだのか
●5. Gputa家に関する新事実 ズマ大統領と親密になるまで
政府当局による出版差し止め要求で一躍注目の的に
本の内容が人々の関心を集めたことは言うまでもありませんが、ズマ大統領やANCの汚職を告発する、あるいは批判する本はこれまでにも多数出版されています。一体今回は、何が違ったのでしょうか?
皮肉なことに、ズマ大統領の意向を忖度した(命令があったのかもしれませんが)政府関係機関が”The President Keepers“を爆発的に広めた貢献者でした。
出版から数日後に、State Security Agency(SSA)が著者と出版社に対して「今すぐ出版を差し止めよ。さもないと裁判を起こすぞ」と脅迫まがいのことを起こしたのです。
このSSAの動きに対して、
「SSAがここまでするのだから本の内容は真実に違いない」
「言論の自由を守れ!」
と世論が反論し、異例の売れ行きが続いているのです。
Jacques Pauw氏の元には殺害予告も届いていますが、国民党政権を敵に回した経験を持つ同氏は全く臆することなし。
南ア最大の書店チェーンExclusive Booksでの出版記念イベントを立て続けに大成功させています。
Hyde Park店での様子。
PretoriaのBrooklyn Mallでのイベントも大盛況。
反対にSSAはむずかしい立場に置かれました。SSAは差し止め要請の理由を、「本書には国家機密に係る事項が記載されいているため」と説明していますが、仮にこれが認められた場合は本の内容は事実であり、ズマ大統領には説明責任が生じます。
ところが本の内容が事実ではないとされた場合、これは国家機密でも何でもなくなりますので、出版差し止めを求める前提そのものが崩壊します。
数々の汚職疑惑をくぐり抜けてきたズマ大統領が、1冊の本をきっかけに権力を失うのか。しばらく目が離せません。
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